2012年05月16日

旅…あの頃

旅…あの頃

むせ返る程の緑…


「おまえはあの木の股から生まれたんやで」

旅…あの頃

小さい頃、父親にからかわれ半分に言われた、幹が二股に分かれた柿の木は今も健在だった。樹齢およそ百年か。


風景はあの頃と何一つ変わっていなかった。ただ、全てが箱庭のように小さく凝縮されていた。


50年前、家族5人が暮らしていた家屋は全てが朽ち果て土に還っていた。

旅…あの頃

僅かに当時を偲ぶものは、辺りに散乱する瓦と朽ちた梁ぐらいのものか…

旅…あの頃

「あの柿の木は渋柿やったな…」

杖をついた母親が懐かしげにつぶやく。


母親に懇願され故郷の田辺市秋津川、通称「竹薮」の集落を20数年ぶりに訪ねたのは先週のこと。


今この集落に住むのは二家族のみ。

50年ぶりに逢う「顔」は、漠とした印象で名前すらも思い出せないが、

皺の深く刻まれたその表情から懐かしさだけは濃密に伝わってくる。


互いの名前と顔を確かめ合い、話に花が咲いた。


この小さな集落には、人懐っこい生き物たちもいた。

旅…あの頃

街中のワンニャンと違って警戒心はない。

旅…あの頃

まるで「ようお越し」とでも言いたげな面々。

旅…あの頃

2時間余り旧交を温め、往時を懐かしみつつ、集落の道端で採れた蕗を土産に持たせてくれた爺さん婆さんたちと別れ、

一路母親の生まれ育った古座町は田原を目指し車を走らせる。


「来月もまた来ようか?」


後部座席の母親にそう問いかけたが、母親はもう気持ち良さそうに居眠りをしていた。



Posted by Ric. at 04:10│Comments(0)
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